第11話
金色に輝くりんご



 裏技の話をしよう。
 ゲームにはまず必ずと言っていいほど、何かしらの隠しフィーチャーがあるものだ。これを世間では「裏技」と呼んでいる。(場合によっては「横綱級」とか「ウルテク」などと言ったりもする) いつの頃からか分からないがこれらの隠し要素は「入っていてしかるべきもの」となっていて、入っていないと逆に物足りない感じがするし、例に漏れず僕の作っているゲームにも入っていたりする。
 しかし、僕はこの裏技に対しては大いに警鐘を鳴らしたいのだ。
 僕を含め実際にゲームの開発をしている連中というのは大人なので情報のアンテナも高いし、感受性も子供のそれと比べてかなり弱いはずだ。 ましてや実際に裏技を「仕込む」側は全てのヒミツを知っているので「まあ、これくらいの裏技ならいいだろう」的感覚で、大して考えもせずに入れてしまいがちだ。 そしてそれは大抵ゲームクリアに関係ない、お遊びの部分だったりするわけなのでなおさらだ。
 ところが、である。実際にゲームする側、特に低年齢層にこの「裏技」という奴は危険である。禁断の果実である。ネコにマタタビである。場合によってはその少年の人生をも左右しかねない、諸刃の剣なのである。 ゲーム開発に従事する人や、ここを読んでくれた人は是非このことをよく胸に刻んで覚えていってください。

 あれは僕が小学生の低学年か、中学年くらいのことだった。僕は今日も今日とて近所のゴウの家に遊びに行っていた。出たばかりの新作ソフト「ちゃっくんぽっぷ」をプレイするためだ。 古いソフトなので一応説明しておくと、この「ちゃっくんぽっぷ」というのは「ちゃっくん」という黄色いキャラクターを操作して、爆弾でモンスターを倒したりして画面内の出口に向かって進んで行くというステージクリア型の固定画面のアクションゲームだ。 画面は各ステージともパズル状で、重力があるので足場から滑ると下に落下してしまう。(落ちても死なない。マリオブラザーズみたいな物を想像してくれれば概ね正しい)ゲームの特徴的な要素として、ちゃっくんの武器である爆弾があげられる。 爆弾はセットするとしばらく後に爆発し、その爆風に巻き込まれると敵も自分も一撃死となるのだ。 爆弾は同時に2個セット出来て、そうすると当然爆風は広がるし、また爆風の面積(?)が決まっているのか細い路地みたいなところで爆弾を使うと爆風がとんでもない遠距離まで到達して思いがけなく自爆、などということもあった。
 …と、大体こんなゲームだ。
 そしてこのちゃっくんぽっぷには、パックマンのフルーツ同様、ステージごとにボーナスアイテムとしてフルーツなどが登場した。 リンゴやブドウなど何種類かあって、特定の条件を満たすことで登場し点数になったり一定時間無敵になったりというような効果があった。

 さて、ゴウの家である。
 その日、ゴウの家には僕の他に数人の友人たちが遊びに来ていた。みんなでひとしきりゲームをしていたわけだけども、所詮はパソコンゲーム。今と違ってみんなでわいわい遊べるわけもなく、友人たちは退屈してきた。 そしてみんなで外に遊びに行くことになった。しかも順番待ちをしていてやっと僕が「ちゃっくんぽっぷ」をプレイし始めた時だ。あろうことか、みんなは僕だけおいてさっさと外に遊びに行ってしまったのだ。
 今考えるととんでもない話だがとにかく僕はゴウの家に一人取り残されてしまった。しかし僕は「これでちゃっくんぽっぷが独り占め出来る」と延々プレイをしていた。
 すると、何度目かのプレイの最中僕は今まで見たことのないフルーツが現れたのを見た。金色に輝くりんごだ。僕は焦った。これは、みんなに報告しなければならない。慌ててポーズキーを押した。
「どうしよう」
 僕は幼心に考えた。この事実を伝えるのにどうしたらいいのかと。簡単に再現出来ればいいのだけども、どうやって出したのかも分からないのだ。何度も通過しているステージで、ごく普通にプレイしていただけなのだから。
 まず僕はゴウたちが帰ってくるのを少し待ってみた。しかし当分帰ってくる気配はなかった。ポーズをかけたまま帰ってしまおうか?とも思った。
 しかし…僕は誘惑に勝てなかった。何しろ金色に輝くりんごだ。何かスペシャルなことが起こるに違いない。このまま帰ったら、りんごを出した僕だけがその結果を知らないままになってしまう。僕は無意識のうちにポーズを解除した。
 おそるおそるりんごを取ってみると、確か記憶はあやふやだがちゃっくんが2人くらい増えたように思う。やっぱりこのりんごはただ者ではなかった。
 しかし取ってしまってから、もう証拠となる物が何もなくて、ゴウたちに伝えることが出来ないことに気が付いた。仕方がない、側にあったメモ用紙にことの顛末だけを書いておこう。その日、僕はそのまま家に帰った。

 明くる日。
 僕は学校でうそつき呼ばわりされることとなった。いわばオオカミ少年だ。ピノキオだ。
 結局ゴウたちは金色のりんごを出せなかったらしい。普通にプレイしていると出てくるのは緑色のりんごばかりだからだ。どんなに「出た」と言っても実際に出せない以上、小学生レベルではうそつきになってしまうのだった。

*

 ということで裏技や隠し要素というのは常に危険をはらんでいるのだ。ついでなのでもう一つ幼少の頃のダメな話をしよう。
 常にあらゆるジャンルで世界征服を目論んでいる秘密結社が登場するまんがの集合体、コロコロという雑誌は皆さん知っていると思う。
 昔、チョロQを題材にしたゼロヨンQ太という漫画が連載されていた。以前からちょくちょく書いているけど、僕の家では基本的に漫画やゲーム(ファミコン)といったものが御法度で、特に漫画は家に一切置かれていなかった。 週刊誌や月刊誌なんて、初めて自分で買ったのは社会人になってからなのだ。それまでは立ち読みか、友人の家への「遠征」である。となると当然斜め読みになるし記憶もあやふやになる。そこに落とし穴があった。
 このゼロヨンQ太ではコロコロでおなじみの各種必殺技が登場するがその中に「チョロQの後ろのクリップ状のところにぐにゃぐにゃに曲げたコインを差し込む」というものがあった。 それによって不規則な空気抵抗が生まれ、元来直進しか出来ないチョロQが、まるで意思を持ったかの如く自在に走り回れる、というものだ。
 有名な技なので同年代の人なら大半の人は知っていると思う。何となくそれっぽい理屈だったので僕は出来るものと信じ込んでいた。実際に試してみれば良かったのだが、チョロQはあったもののあいにく曲げたコインがなかった。 なので、ずっとそうなるものと信じたままでいたのだ。それが違うということを知ったのは、何と大学生になってからだった。危なかった。一生十字架を背負って生きねばならないところだった。 コロコロ系の漫画は他にも危険な物が数多い。今読めば笑い飛ばせる物ばかりだが、小学生にはそれが真実なのだ。バンゲリングベイにはバミューダ海域があって巨大なドクロが出てくるというような話も信じてしまうのだ。

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 ところで先ほど出てきた、ちゃっくんぽっぷの金色のりんご、真相を知りたくなったのでインターネットで検索してみたところ長年の謎がようやく解けた。
「条件を満たしていると1/256の確率で出現する」
 出ないって。それは出ませんてタイトーさん(移植したのは違う会社だけど)
 実際に自分もやってるから文句は言えないのだけど……ユーディーのアトリエにも1/128で登場する何かがあるよ。

つづく



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