第9話
さあどうする?



 今回は僕が初めて作った(完成した、ではない)コンピュータゲームの話をしよう。といっても僕はプログラムの知識はまるで無いので企画、制作レベルの話だ。

 ことの始まりは小学校の時。僕は第1話で少しだけ登場したオオタゴウの所有するPC−88の各種ゲームに心奪われていた。ちなみに当時のゲームはとにかく簡単なシステムの物が多く、 特にアクション性の強い物はパソコン(マイコン)の性質上皆無に近かった。記号を使ったゲームか、アドベンチャーゲームしか無かった、と言っても過言ではないのではなかろうか。
 初めて触ったゲームが「鍵穴殺人事件」というアドベンチャーゲームで、小学生低学年に殺人事件物はあまりにハードルが高くまるで理解出来ずついに今日に至るまでクリア出来ずじまいだが、 そういうこともあって当時パソコンゲームと言えば個人的にはアドベンチャーゲームのことを指していたように思う。(フラッピー、ちゃっくんぽっぷ、アルフォス、フォーメーションZに激しくハマった時期があったがそれは後の話だ)
 当時のアドベンチャーゲームというのは今ちまたに出回っているそれとはジャンル名こそ同じだが中身は決定的に異なると言ってもいいだろう。おおむね次のような仕様になっていた。

 画面:各シーン毎に1枚絵として絵が存在した。これに関しては今もそれほど変わらないだろう。
 コマンド:メニューとしてのコマンドは一切無かった。プレイヤーは、1枚絵を見て、コマンドを推理し、キーボードから直接文字を入力する必要があった。
 ハマリ:不条理なゲームオーバー、ハマリは山ほどあった。一度つっかかると永遠にクリア出来ない様は、ある意味最強の「覚えゲー」と言えるだろう。

 何が違うと言って、最も違うのはやはりコマンドだろう。例えばある画面で別の場所に移動したいとき。今なら行ける場所がマップなどで表示されていたりメニューがちゃんと用意されているが当時はしっかり『移動 北』などと入力しなければならなかった。 漢字なんてのも無かったので「イドウ キタ」だ。半角カナの入力はプレイヤーも面倒だったが制作者のプログラマも面倒だったと見えて、『move north』などと英語で入れねばならないゲームもあった。
 まだ移動だけなら話は早いが、あらゆるコマンドが全て手動入力だったので話は一気に難しくなる。例えばテーブルの上に鉛筆があるとして、今ならその鉛筆を調べようと思ったらコマンドメニューの中から『調べる』を選んで、 出てきたカーソルを鉛筆に合わせればメッセージが出る、などという感じだと思うけど、当時はとにかく入力だ。『調べる 鉛筆』だ。漢字は無いので『シラベル エンピツ』だ。

 さてこのシステムの最大の問題点は、面倒くさいというのもあったが「制作者が用意したコマンドでしか反応しない」ということだ。「調べる」ではダメで「見る」だと反応する、とかそんな感じなのだ! どうして一度ハマると先に進めなくなるかいきなり分かってもらえたと思う。当時「サザンクロス」というゲームであからさまに怪しい物がある場所があって、そこを調べれば先に進めるのは間違いない、というシーンがあった。 しかし「調べる」でも「見る」でも、とにかくあらゆる文字を試したけど一向に反応しない、ということがあった。
 もうダメか、と半ば諦めかけていた僕だったが、1ヶ月くらい頑張ったある日、オオタゴウが「分かった!『近づく』だった!」と狂喜乱舞してやってきた。

 そんなの分かるかーー!!

 分かったオオタゴウもオオタゴウだが、やはり根本的な部分で欠陥のあるシステムだったので、何年もかけて改良に改良を重ねて、そして今日のアドベンチャーゲームへと進化したのだと僕は思っている。


 これが当時の時代背景だ。
 気に入った物があればやりたくなる。やったら自分でも作り手に回ってみたくなる。少年なら標準的な心理だ。この時代背景の元、作るものは当然アドベンチャーゲームだ。しかし冒頭でも言ったように僕はプログラムが組めない。 そこで思いついたのは落書き帳に絵を描いて紙芝居風にすることだった。正解コマンドは紙の裏に描いてある。当然、プレイするのは制作者の自分ではなく友達になるので本当に紙芝居のようだった。水飴でも売っていれば戦後時代まで遡れそうな感じだ。
 僕の力ではこれで精一杯…、そう思っていた頃救いの手がさしのべられた。ゲーム化しよう、と言う人間が現れたのだ。

 このエッセイでおなじみの、ツヨシである。ここまで引っ張ってきてまたもやツヨシの話で申し訳ない。

 ツヨシは僕の作ったゲームを気に入って、そしてそれをX−1に移植しようという話になった。早速作業に入る二人。
 するとその様子を見ていたツヨシの妹がやはり同じように僕の作ったゲームを気に入って、こともあろうに自分も作る!と落書き帳を持ってきて作り始めてしまった。 すると今度はその様子を見たツヨシもが触発されてしまい、まさに制作しようとしていたゲームを急遽白紙撤回、オリジナルを作ることになった。
 小学生の作る物語(?)で、基本的にノリだけで作っているのでストーリーはメチャメチャだ。前回のエッセイ同様、電波の飛びまくる内容だ!

 …とまあ長い前置きになったが、今回はこの電波な内容を紹介してみんなで笑い飛ばそう、というのが主旨だ。

*

*

(ここからはネタバレです。自力でクリアしたい人は見ないように!!)

 あなたは荒野にいる。見渡す限りの畑、雲一つない青空。(描くのが面倒だったから)南北に伸びる一本の道。
 さあどうする?
 北に行こうとすると工事中のため進めないと言われ、南に行こうとすると落とし穴に落ちて死亡、いきなりゲームオーバーだ!
 正解は『待つ』だ。待つとオオタゴウが現れるのだ。しかし慌てるな!いきなり待ってしまうとオオタゴウは現れるがすぐに立ち去ってしまってゲームオーバーだぞ!ここははやる心を抑えてまずは『畑 掘る』だ。腐ったサツマイモが手に入る。
 イモを手に入れた上で、改めて『待つ』。現れたオオタゴウにイモを渡すと海まで連れていってくれるというので背中に乗せてもらう。(オオタゴウは空を飛べるのだ!) しかし途中、イモの効果が無くなったのか、メインの推進力であるおならパワーが消滅、プレイヤーを振り落とし自分だけ去ってしまう。
 落ちた場所は滝壺。細かく描き込まれた風景は当時、表示するのに2分17秒もかかったという代物だ。(余談だがその後ベーシックからマシン語に乗り換えたときに0.5秒で表示できるようになった)
 さあどうする?
 行ける場所はどこにもない。滝壺(水)の中に入ろうとするとあまりの水の冷たさに気を失って死亡、ゲームオーバーだ!
 正解は『祈る』だ。祈ると滝壺に大穴が空き、洞窟が現れるのだ。
 洞窟は少々長く、数画面分の移動が必要になる。そして奥に到達するとそこには銀行の金庫のような、厳重な金属扉。当然カギはかかっている。
 さあどうする?
 押しても引いてもビクともしない。どうやら開けるためのカギが必要だということだけが分かる。しかしカギは持っていない。
 正解は2画面ほど洞窟を逆戻りし『上 見る』だ。何と洞窟の天井に扉のカギが!
 扉のカギをゲットし、そのカギで扉を開けるとそこにはさらに下に降りる階段(はしご)がある。ここは素直にはしごを使って下に降りよう。このシーンは(当時では)画期的なアニメーションが使われていた。 といってもはしごの絵が2パターン用意してあって交互に表示しているだけなのだが、それでも当時は本気で感動していた。
 さて、下に降りるとそこは下水道のような通路になっている。古びたれんが造りだ。
 その下水道の通路を進むとまたもや先には金属扉が登場。この扉も厳重にカギが掛けられている。もちろんカギは持っていない。
 さあどうする?
 正解はやはり2画面ほど下水道を逆戻りしたところにある壁を(プレイヤーが)注意深く見ることだ。なぜか一部分だけ壁の色が違うことに気づく。 ここで『壁 壊す』だ。なんと壁が壊れてその奥に小さな部屋がある!その部屋にはオオタゴウが住んでいるのだ!
 オオタゴウはプレイヤーを落としてしまったことを詫び、扉のカギをくれる。カギを手に入れたらさっそく下水道の奥まで行き扉を開けよう。
 扉を開けると、またもや小さい部屋があり、今度は上に伸びるはしごがある。ここも素直にはしごを登ろう。このはしごもアニメーションだ。 2パターンしかないので上に登っていると思って見れば登っているように見えるし、下に降りているように思ってみると下に降りているようにも見える…。
 さてはしごを登るとそこはマンホールだったらしく、いきなり大都会の路上に現れる。これから新しい冒険が始まるのだ!

(第1部完)

*

 今回もまた書いててイヤになってきた。結局第2部は作られることはなかった。大都会の絵を描くのが面倒だったからだ。第1部も、画面数にすると18画面程度しかなかった(しかも洞窟とか下水道とかが大半)。 当時の市販ソフトは、簡単とは言ってももっと画面数はあったし絵も頑張っていたし文章量も多かった。改めて本物は違うなあ、と小学生ながら思ったものだった。 僕たちの作ったのは18画面だけだったが、しかし作り始めてから完成するまでに実は半年くらいかかっていたのだった。

 しかし、たったそれだけのボリュームだったのだが、クリア出来た人はついに現れることはなかった。ゲームは、クリアされねば意味がない。プレイヤーと勝負するためにあるわけではないのだ。
 そして、もうクリア出来る人が現れることはない。

つづく



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