第7話
名前の話をしよう(3)



 ゲームキャラクターの名前の話をしよう。今回はエリー編だ。

 エリープロジェクトが始動して、まず真っ先にやらねばならないのは企画書を作ることであった。これはまあ当たり前のことであるけど、しかしさすがに企画書を書くときタイトルも主人公も決まっていないのでは話にならないのです。
これが新規プロジェクトの場合、ゲームシステムとかの方が重要なことが多いので全て「仮」で済ますこともある。むしろ大抵の場合はそうだ。 しかしエリーの場合続編物なので当然社内でも「今度は誰が主人公でどんなタイトル?」といきなりツッ込んでくるのだ。
 そこで僕は、名前を○リーにすることが大前提だったので色々考えた末、まず愛称を「エリー」に決めた。愛称がエリーなので、では本名は「El」で始まる名前だろう。 エリザベスの愛称がベスとかベティだったりという例外もあるけど、ここは素直に行こう。
 そう思って辞書をパラパラやっていると「Elvira」という名前が僕の目に留まった。こ・れ・だ。
英語読みであるところのエルヴィラさんはどうやらドイツ語だとエルヴィーラさんというらしい。僕はこれをもじってエルヴィールにして、しかし発音しづらいという指摘もあってエルフィールに変更した。 つまり、エルフィールの名前の由来はエルヴィーラさんなのだった。
そしてゲームのストーリーを典型的なスポ根モノにしようとしていたので、夢追い物語だから「夢」を意味するトラウム(英語圏でいうドリーム)をファミリーネームにしてみた。
 エルフィール・トラウムの誕生だ。
 何だ、簡単だったじゃないか。安直な気もしたけど、今思うとそんなに悪くないんじゃないかという気もするんだがどうだろう。

 お次はノルディス。実は彼は最初ジゼルという名前だった。しかしそのあとすぐにアイゼルが決定し、名前が似ていてかぶるという指摘があったのでどっちかを変えよう、ということで彼の方が選ばれたという経緯がある。
 実は今でも僕は「名前がかぶっていてもいいじゃないか」と思っていたりするのだが、しかしこの理論はどうもあまり理解されない。僕の持論だと「無作為にキャラクターなどをチョイスしたら名前とか設定とか、 全員が全員、きっちり測ったかのように棲み分けされるのはおかしい。性格や生い立ち、名前が似ていたりする人がいたっていいじゃないか。いやむしろ全く同じでも問題ないだろう」ということになるのだが、周りはどうもソレを許してくれないのだ。 確かに僕も営業戦略とか色々なことを考えるとあまり得策でないことも分かるので名前の変更に踏み切ったんだけどね。
 そんなこんなでジゼルからノルディスになった彼であるわけだが何故ノルディスになったのかというとこれがまた覚えていなかったりする。あちこちで言われているように語源がスキー競技でおなじみのノルディックなのは間違いないのだ。 しかしどうしてそんな名前を付けたのか思い出せないのだ。長野オリンピックってちょうどあのころだったっけ?…違うか。
 そうそう、ノルディスといえばファミリーネームのフーバー。このフーバーというのは実際にごまんといる名前なんだけど、スペルを「Fuba」としているんだよね。これは正しくは「Huber」でした。(今更言っても手遅れ)

 エリーのライバルキャラ、アイゼルは結構簡単に名前を付けた記憶がある。鉄の女サッチャー女史にあやかって、登山用具名にも使われているアイゼン(Eisen=鉄)をもじってアイゼルにした。 そしてファミリーネームのワイマールは実在のドイツの地名。これにはこだわりがあって、僕は「エライ人、高貴な人の名字はそのまま地名になる」と思っている。事実、そうだ。 特に広大な領地を持っている場合、その領地を示すのに「誰それさんの土地」と言うしかないからそれが転化して地名になってしまう。(逆に地名をそのまま名字に使うという場合もあると思うがどっちが卵でどっちがニワトリなのかは僕には分からない) 日本の地名だってそうだ。
なので、アイゼルにも地名を!と思ったので例によって辞書をパラパラやってワイマールになったのだった。

 地名が名前になっているといえばロマージュもそうだ。彼女のファミリーネーム、ブレーマーはブレーメンの人という意味でブレーメンというのは音楽隊の話で有名なドイツの地名。 南方出身という割にはブレーメンなので全然南方じゃないけど、まあ虚構なので笑ってゴマかすことにする。(あ、でも、ということはロマージュは結構由緒正しい人なのだろうか?)
 ロマージュという名前は、「〜ジュ」という名前が作りたくて考えた。でもフランス語圏っぽいかも知れない。以前、簡単な男性名の作り方という話で「とにかく濁点を入れる」 ということを書いたけどロマージュに関しては逆にそれを女性名に当てはめようと思ったのだった。その方が名前に変化が出て面白いのだ。

 変化を出した、という意味では個人的一押しキャラのミルカッセもそうだ。ファミリーネームこそフローベルなどという安直な名前になっているけど、ミルカッセは流れるような語感の女性名が溢れる中、意図的に「ッ」を入れたくて考えた名前。 現実世界にはジャネットとかマーガレットとかそういう名前の人も数多いのに、ことゲーム界ではあまり見かけない。ならばここいらで一つ…と思った僕が作ったのがミルカッセなのだった。もっとも、名前の語源は肉料理の「フリカッセ」からなんだけど。 しかもよく考えたらフリカッセはフランス語だ。ドイツ語じゃフリカセーだ!
ミルカセー。…ちょっと使えないな。

 気を取り直して、今回最後の紹介はキャラ人気ナンバーワンの地位を射止めたダグラスだ。キャラ設定が「北方のカリエル王国からやってきた剣士」ということなので名前もドイツ風ではなくアイルランド風になっている。
 しかしこの名前は元はというと学生の頃書いていた小説の主人公なのだった。ちなみにその小説は海賊モノだ。主人公のダグラスは大英帝国に籍を置く海賊で…というストーリー。 今、週刊ジャンプでやっている「ワンピース」を、もっと固くして歴史物のテイストを入れたらこうなるんじゃないか、という内容だったが、その小説は結局完成しなかった。
完成しないまま就職することになったり引っ越しをしたり使っていたワープロが古くなって使い勝手が悪くなったりとで闇の彼方へ葬り去られたので、 ダグラスの名前を決める段になったとき「じゃあ遠慮なく使ってもいいか」と思って名前だけ引っぱり出してきたのだ。
遠慮なく、というのはもしかしたら小説が完成して応募したらついつい受賞なんかしてしまったりしてあまつさえ文庫本になったりしたらマズイなあ、というずうずうしく厚かましいことこの上ない目論見があったからだ。
しかし作品が冥界に消え去った今ならもう時効だろう。せいぜいこのエッセイでネタに使うのが関の山。
 さてこのダグラス、当時(学生時代)は結構色々調べて苦労して作った名前なのだが、最近になって全くの同姓同名がいることが分かった。
それも米海軍・第五空母航空団司令官だ。ダグラス・マクレイン大佐だ。横須賀にやってきたこともあるぞ。

 海賊上がりが聖騎士になって、ついには司令官だ。偉くなったなあ。

つづく



back