第5話
名前の話をしよう(2)



 ゲームキャラクターの名前の話をしよう。
 前回、ドルニエまでの紹介が終わっていたので今回はその続き。といっても、全員分やるわけではないです。何しろ、なんとなく付けた名前のキャラクターとかどういう意図で名付けたのか忘れてしまったキャラクターもいるのだ。いや、申し訳ない。

 まずはブレドルフ王子だ。ドイツ語には「○○ドルフ」という名前が結構たくさんあって、彼も例に漏れずエンデルクなどと同じく○○ドルフという名前にしたくて付けた名前だ。
この○○ドルフ、現実では人名で使われている例はあまり見かけない(ルドルフとかアドルフとかくらい?)が、地名になるとぐんと増える。(デュッセルドルフとか) 理由は○○ドルフ、というのが○○村、という意味だからなんだけど、人名で使われているのって同じ意味なんだろうか?もし同じだとしたらさしずめ木村さんとか中村さんとか、そういう意味なんだろうか。 ファーストネームに使われているから日本人だと真田幸村あたりになるのかも知れないなあ。
ちなみに前回簡単に女の子の名前を作る方法、というのを書いたけど、逆に男の名前を作る方法もある。これも簡単で「名前の中に濁点をたくさん入れる」というのがソレだ。濁点がたくさん入っていると何となく強そうな感じになる。 ブレドルフも5文字中2文字が濁点だ。ドイツ系の名前はもともと濁点が多いので2文字程度じゃ普通なのかも知れないけどね。
ただ、そんな便利な濁点も、やたらに入れればいいというものでもないと思う。昔、あるゲームで「ガバデデ」という、えらくヤケッパチな名前のキャラクターが登場したことがあった。 ここまでくると男とか女とかそんなことを超越して、もはや人の名前じゃないと思うんだがどうだろう。しかし、強そうではある。痛そうでもあるけど。
 さてブレドルフ王子のファミリーネームであるところのシグザールは、これは造語。もとは「schicksal(シックザール=運命)」という単語だった。これは要するに任天堂の社名の由来と同じで、(人事は尽くしたので)あとは天命を待つ、運を天に任せる、 という意味で付けてみたものだ。ザールブルグという街の名前はこのシグザールの後ろのザールの部分だけとって、そこに城塞都市を意味するブルクをくっつけただけだったりする。ザール、と言ってもスペルが「sal」になっているのはそういう理由だから。
 あと、どうしてブルクではなくブルグ、なのかという質問をよく耳にしたけれど、これはそっちの方が発音がしやすいからだ。仮にもタイトルなので発音しにくい、というだけで大きなマイナス要素になるのだ。

 お次はミュー。これはそのまんまギリシャ語のアルファベットに登場するμ(ミュー)。錬金術のゲームなのでもっとアカデミックにしよう。そうだ、ギリシャ語の何かを使ってみるのはいいんでないか!?
と思ったのはいいけれど、そのときにはすでにみんな名前が決まっちゃっていて残っていたのは彼女ただ一人だけだったので自動的に彼女に大決定!当時は結構画期的な名前の付け方かも知れないぞ?と思っていたけど、 でも今改めて考えてみるとこれはすでに天空の城ラピュタでやられていた。θ(シータ)で。そういう意味合いで名前を付けたのかは知らないけど、宮崎監督のキャラにはλ(ラムダ)とかもいたから多分そうなんだろう。むう、残念。
 ファミリーネームのセクスタンスというのは、これも造語でもとは「sextant(ゼクスタント=六分儀)」。六分儀というのは昔の航海用具で、星の位置から現在の船の位置とか向きを調べるための道具なんだけど、 どうしてそれが名前に使われたのかというと実は僕にも分からないのだった。何でだろう。六分儀が出てくるようなゲームをやっていたか、あるいは辞書パラ技の賜物なんだろうか?

 みなさんお待ちかねのクライスは、「円」という意味。マドカ君だ。
普通、親が子供の名前を付けるときは「将来こういう人になりますように」という意味合いを込めるものだ。そこで僕もクライスの両親の気持ちになって考えてみた。 「丸く、誰とでも仲良く話せる穏和な優しい子になりますように……」
名は体を表すというけれど、大半の場合はそうでないことが多くて、むしろギャップが激しいほど面白いし、目立ちますね。ダンプ松本の本名が松本香だったりとか。僕は確かにクライスの両親の気持ちにもなるけど、 しかしその前にゲームの企画屋でもあるので本当に名が体を表していては全然面白くないと思うのだ。彼の場合先にああいう性格が決定していたので、ぶっちゃけた話どうやったらそれに逆行するような名前になるか、と考えて作った名前がクライスなのだ。 もっとも、元々が日本人には馴染みの薄いドイツ語だから単語の意味が分からない人にはこっちの意図は全く伝わらなくて、単なる自己満足に帰結してまうんだけれども。
 逆に名が体を表しているのはシェンク。そのまま酒場の親父という意味だ。クライスのファミリーネームであるキュールも英語で言うところのクールなのであれはそのものズバリでしょう。お姉さんのアウラも冷たいし。 アウラとかフレアという名前は、前回書いた悪い癖であるところの、例の「簡単に作れる名前(女性編)」が露骨に適用されてしまった結果。一応アウラはアカデミーショップのお姉さんだったので「学校の講堂」という意味の「Aula」を使ったけれど、 もしこれが全然違う発音の単語だったらすっぱり切って別の名前を付けていたと思う。フレアは完全な造語だと思うが僕には分からない。何しろ名前を作ったの僕じゃないし……。ここだけの話。

 火竜・フランプファイルは、もともと彼(牡なのか?)が自らフランプファイルと名乗っていたわけではなく冒険者連中が勝手に命名しているものなので、僕はシチュエーションなど、その生き物を的確に表す表現が望ましいと考えた。 つまりフンコロガシである。転がしているんだからそう呼ばれたって仕方ない。犬は昔から犬と呼ばれていて、何故犬と呼ばれるようになったのか僕には分からないが、猫は年中寝てばっかりいるのでかつては寝子と呼ばれていたらしい、という話と同じだ。 まして火竜ともなるとその炎の一撃で人間なんて一瞬で消し炭にされてしまうのだ。畏怖を込めて、何か特徴を端的に表す名前で呼ばれるに違いない。
そこで僕は「炎の矢」と形容することにした。しかしそのままでは光ちゃんの必殺技になってしまうのでドイツ語にした。僕は専攻がフランス語だったので実はドイツ語の活用形とか全然分からないのだが、 とりあえず炎と矢の2つをくっつければいいだろう、ということでくっつけてみた。
炎はフラム。アイテムのフラムと同じだ。矢はプファイル。つなげるとフラムプファイル。しかしこれではとてもじゃないが発音しづらいので少し丸めてフランプファイルにした。 ゴロから言ってフランプ・ファイルと思われがちだが本当はフラン・プファイルなのだ。
 エアフォルクの塔も同じような名前の付け方だ。冒険者連中には「もしかしたら一攫千金が狙える塔かも知れない。敵がわんさか出るが、それだけ敵がいっぱいいると言うことは、守るべき何か大切な物があるからだ」という考えがあるだろう。 実体は魔界とのトンネルだから敵がわんさか出るのは当たり前なんだけど、そんなことは冒険者は知らないので塔に名前を付ける際に「Erfolg(エアフォルク=成功)」と名付けた、というわけなのだ。

 …さてマリー編最後に登場はハレッシュだ。
 彼にはいつも申し訳ないなあ、と思っている。今思い返してみると僕は彼に対していい思いをさせてやった記憶がない。大抵やっつけで決めてきたので何から何までいい加減だ。 ハレッシュという名前は……実はこれもよそから拝借してきた名前なのだ。つまり、僕はまたもやパクったのだ。しかも今度のパクり元はゲームキャラクターだ!すぐに何だか分かったらその人は相当のオタク…いや「通」な人だと思うんだが、 10年ほど昔の、とあるゲームの中にこういう名前のキャラクターがいたのだ。確か、こんな名前。すでに正しかったかどうかも覚えていないくらいだ。
 ファミリーネームのスレイマンは、スペルこそ変えているけど元ネタはオスマントルコ帝国のスレイマン大帝から。パクった名前から一転、皇帝の名前まで飛んでしまうが、 これはあるいは僕の中にちょっとくらいはいい思いをさせてやらないとかわいそうかな?というささやかな親心みたいなものがあったからなのかも知れない。
かも知れない、というのはつまり覚えてないということなんだが、覚えてないということは、もしかしたら初めからそんな心はなくて単に気まぐれで付けた名前なのだろうか?
 教えてくれ、当時の僕よ。

つづく



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