第4話
名前の話をしよう(1)



 ゲームキャラクターの名前の話をしよう。
 いまさら感は拭えないが、しかしこういう裏話のようなネタを知るのが好きな人たちが多いことはよく分かっている。特に、それに関連することだったら何でも知りたいと思う、熱い時代がみんな必ずあるはずだ。 今回の場合はゲームだが、つまり、そのゲームについてだったら名前から何まで、役に立とうが立たなかろうが全部知りたいと思う熱い気持ちだ。ほとばしるパトスだ。青春の幻影だ。他ならぬ、学生時代の僕がそういう気持ちの持ち主だった。 僕が世界標準だとは思わないが、でも、みんな持っているだろう?
 そこで、ばれても誰も困らない…というか僕が会社から怒られないようなネタを提供してみよう、と考えてみるとまず設定資料というのが筆頭に挙げられる。その中でもキャラクターの名前の由来とか付け方、なんてのはいくら知られても全然問題ないし、 聞く方も面白いんでないだろうか。面白いに違いないと思いつつ、話を進めてみる。

 まずマリーのアトリエからいってみよう。
 そもそもこのマリーのアトリエというゲームは僕が今の会社に提出した応募作品をベースにしたものなのだが、プロジェクトが始動する前に僕が言われたのは別のゲームを作ることだった。なんちゃらエムブレムのような、SRPGだ。 それまではポリゴンキャラのアニメーションデータを作ったり、というような仕事ばっかりだったので「ぃよーし!やったるか」と一気にストーリーを書き上げてみたのだが、OPとあらすじを書いたところで「はて、何か違うな?」と思うようになった。
 何が違うかと言って決定的だったのはストーリーがごくありふれていてつまらないことだ。これは、売り物にならん。とてもじゃないが本家に勝てる要因が見あたらぬ。そこで思い切って企画そのものをバッサリ一刀両断、 袈裟に切り捨ててマリーのアトリエをスタートさせるに至ったのだった。スタートにこぎ着けるまでには二転三転、大変なことがあったり先輩に助けてもらったりと色々だったが、それはここで語る事じゃないので省略する。 回りくどくなってしまったが、とにかく「最初は違う企画だった」ということだ。

 最初、主人公はルーウェンだった。囚われのお姫様を助け出すような、そういうキャラ。当時から中世風、ドイツ風、と決めていたから一応それっぽくは考えてみたが基本的に適当に付けた名前。 僕は名前を適当に付けるときはドイツ語の辞書を持ってきて端からパラパラめくって、我々日本人にとって語感のいいと思われる単語を使っている。場合によっては少しもじったりもする。
 主人公のお相手役のいわゆる囚われのお姫様はマルローネ。身分を隠しているので最後になるまで名字は出ない、ということにしていたが名字を決める前にゲームがポシャってしまったから結局名字は付かずじまいだった。なんだかなあ。
 エンデルクはやっぱり王国最強の騎士だ。名前を決めるとき、「○○ルク、みたいな堅くて強そうな名前にしたい」と思っていた。どうやら僕の中ではドイツ語で一番強いのはビスマルクということになっているようだ。ビスマルク。 ところで話は少し脱線するが、同人でも何でもいいけど架空の名前を付けようとすると、普段名前を付ける習慣がない人なんかだと毎度のように同じような名前を付けてしまうことはないだろうか? 顕著なのは女の子、それも若くてカワイイ女の子の名前を付けようとすると、得てして「ラ行、サ行、ア行がふんだんに盛り込まれた、フランス語のような流れる語感の、3文字程度の名前」を作ってしまわないか!? まあ、実際問題、実在する名前もそういうのが多いから仕方ないかもしれない。サライなんて典型的なパターンだよなあ。みんなもちょっと今まで付けた名前を思いだしてみるといい。思い当たるフシがあるはずだ。 で、何の話だったか。そう、ビスマルク。なーんにも考えず、いきなりビスマルクという名前を作ることが出来る人がいたら僕は大いに尊敬する。思いつかないでしょう、普通。 だけど僕はそれが出来るようになりたいと思っていて、でもそう簡単には出来ないから現存の名前の一部や音便だけを拝借してきてそれに当てはめるようにしようと考えた。だから、僕にとってエンデルクは、つまりビスマルクなのだ。
 キルエリッヒは、これまた「○○リッヒ」という名前を使いたくて適当に考えた。ルーウェン側、つまりプレイヤー側と敵対する軍勢があって、その四天王の一人だった。 記憶の糸を紡いでいってみると、四天王はキルエリッヒとシュワルベとクーゲルと後一人、マリーのアトリエには登場しなかったが確かマティアスとかいう名前のキャラで構成されていたはずだ。ってそれはどうでもいいことだった。 ゲームの内容じゃなくて名前の話だった。そう言えばエンデルクもキルエリッヒも、ファミリーネームの方はファーストネームよりもさらにいい加減に作っている。 これは他のキャラクターにも言えることだけど、僕はフルネームで読んでみたときにスルッと言える名前にしようと思っている。その方が覚えてもらいやすい。ゴロが悪い名前というのは、逆に僕がそのキャラクターに特別思い入れがあることが多い。 思い入れがあると色々どうでもいい設定をたくさん作ってしまったりしてその設定のために自動的にファミリーネームが決まったりするからだ。
 シアは、僕が小学4年くらいの頃、日本放送協会で放映していた「太陽の子エステバン」というアニメに同名のキャラクターがいて、そこから拝借した。ぶっちゃけた話、パクったのだ。ぶっちゃけすぎか。 とにかくそれくらい僕はシアが好きだったんだが、先日再放送があって、通して見てみたらあまりかわいくなかった。声も変わっていたし。何だかすごくがっかりした。思い出は美化される、というのを身をもって思い知らされた。
 さて、シアのファミリーネーム、ドナースタークは木曜日という意味だ。何故木曜日かというとこれには深い意味はなくてたまたま名前を考えたのが木曜日だったからだ。ロビンソン・クルーソーも同じ事をやった。別段驚くことではあるまい。
 イングリド先生は、もともとはイングリットだったが文字数制限のためにイングリドになったという経緯を持っている。でもイングリットもイングリドも、実際ドイツに行けばたくさんいる名前のようだ。 僕は全部が全部架空の名前、というのはリアリティが欠けてしまうようでやりたくないと思っている。だから結構普通のドイツ系の名前を使っているキャラクターが多い。ナタリエも同様に実在の名前だ。多分、ありふれた名前だろう。 ファミリーネームのコーデリアというのは、実はこれも普通の女の子の名前であってファミリーネームではなかったりする。しかしヨーロッパでは元々名字という概念が近年になるまであまり発達していなくて、誰それさんの息子の誰それ、 みたいな呼ばれ方をされていたらしい。マイケル・ジャクソンを例に取ると、ジャクソンというのはジャック+ソン、つまりジャックの息子という意味であってジャックの息子のマイケル、というのが由来だ。 だからファミリーネームにファーストネームが来ても実はあまり問題にはならない、と考えた。ついさっき。でも女の子の名前がファミリーネームになるかどうかは分からない。ダメかも知れない。ダメかな?忘れることにしよう。
 ドルニエは、これはマニアックな話になるが、ドイツの戦闘機メーカーでドルニエ、というのがあった(ような気がした)ということで何となく付けた名前。やはり男で、しかもご老体ともなると僕も名前を付ける意欲が、テンションがかなり低い。 なげやりでゴメンよ、ドルニエ先生。

 …とまあ半分くらい書いたところで長くなってきたので次回に続くことにしよう。この調子だとエリーのアトリエまで含めてあと3回は話を引っ張ることになりそうだ。
 でも冒頭で熱く論じた割には、こんなの誰か読むのかなあ?と少し弱気になっていたりして。

つづく



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